デザイン思考ワークショップにおける効果的なアイスブレイクと共感フェーズへの円滑な移行
はじめに:ワークショップの成功を左右するアイスブレイクの重要性
新規事業アイデア創出を目指すデザイン思考ワークショップにおいて、冒頭のアイスブレイクは単なる参加者の緊張を解す行為以上の意味を持ちます。参加者間の心理的安全性を構築し、創造的な議論が活発に行われる土壌を耕すための重要なステップです。特に、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる企業内のワークショップでは、この初期段階でのファシリテーションがその後のワークショップ全体の成果に大きく影響します。
本記事では、デザイン思考ワークショップ、特に「共感フェーズ」へ円滑に移行するための効果的なアイスブレイクの選び方、具体的なアクティビティ例、そしてファシリテーターが意識すべきポイントについて解説します。
ワークショップにおけるアイスブレイクの目的
デザイン思考ワークショップにおけるアイスブレイクの目的は多岐にわたりますが、主に以下の点が挙げられます。
- 心理的安全性の構築: 参加者が安心して意見を述べ、批判を恐れずに発想できる環境を作り出します。
- 参加者間の相互理解の促進: 初対面または普段あまり交流のないメンバー間で、互いの人柄や共通点を知るきっかけを提供します。
- ワークショップの目的への意識統一: 遊びと学びのバランスを取りながら、これから始まる創造的な活動への意識を向ける準備を促します。
- 集中力の向上: 適度な運動や思考の切り替えを通じて、参加者の集中力を高めます。
これらの目的を達成するために、アイスブレイクは単調にならず、かつワークショップの性質から大きく逸脱しないものを選ぶことが重要です。
デザイン思考ワークショップに適したアイスブレイクの選び方
デザイン思考ワークショップの特性を考慮し、以下のような観点からアイスブレイクを選ぶことを推奨します。
- 共感と傾聴を促すもの: 参加者が互いの話に耳を傾け、相手を理解しようとする姿勢を育むアクティビティは、後の共感フェーズに直結します。
- 非言語コミュニケーションを伴うもの: 言葉だけでなく、絵やジェスチャーなどを用いた表現は、思考の柔軟性を高め、異なる視点を受け入れる土壌を作ります。
- 短時間で実施できるもの: ワークショップの限られた時間の中で、効率的に効果を発揮するものを選びます。一般的には5分から15分程度が適切です。
- 準備が容易なもの: 事前の準備に手間がかからず、場所や道具に依存しすぎないアクティビティが好ましいでしょう。
具体的なアイスブレイクのアクティビティ例とファシリテーションのポイント
ここでは、デザイン思考ワークショップに特におすすめのアイスブレイクをいくつかご紹介します。
1. 「3つの質問」
- 目的: 参加者の個性や関心事を共有し、共通点や意外な一面を発見するきっかけを提供します。他者への関心を促し、共感フェーズへの導入とします。
- 手順:
- 参加者に、紙とペンを配布します。
- ファシリテーターが、以下の3つの質問を提示します。
- 最近夢中になっていること、興味を持っていることは何ですか。
- もし明日から1週間、自由に過ごせるとしたら何をしますか。
- 仕事以外で、あなたが「これは得意だ」と思えることは何ですか。
- 各参加者に、それぞれの質問に対する答えを簡潔に紙に記入してもらいます(各質問につき1分程度)。
- ペアまたは3人組に分かれ、それぞれが自身の答えを共有します。この際、相手の話を傾聴し、深掘りの質問を促します(各人2〜3分)。
- 全体で、印象に残ったことや共通点などを簡単に共有します(任意)。
- ファシリテーションのポイント:
- 質問はオープンエンドで、かつポジティブな内容にすることで、参加者が話しやすい雰囲気を作ります。
- 「傾聴し、相手に興味を持つこと」の重要性を冒頭で伝えます。これはデザイン思考の共感フェーズにおけるインタビューの姿勢に繋がります。
- 共有の時間を十分に確保し、焦らせないようにします。
2. 「マシュマロ・チャレンジ」の簡易版
- 目的: チームでの協働と試行錯誤の重要性を体感させます。失敗を恐れずに挑戦するマインドセットを育みます。
- 手順:
- 各チームに、スパゲッティ、マシュマロ、テープ、紐を配布します。
- 「与えられた材料で、マシュマロを最も高い位置に固定できる構造物をチームで作成してください。時間は10分です。」と指示します。
- 制限時間内に各チームで作業を進めます。
- 時間が来たら、各チームが作った構造物の高さを計測し、最も高かったチームを発表します。
- ファシリテーションのポイント:
- 「失敗しても良い」「試行錯誤が重要」というメッセージを冒頭で伝えます。
- 各チームの進捗を観察し、必要に応じて声かけや励ましを行います。ただし、介入しすぎず、チームの自律性を尊重します。
- 終了後、なぜその構造になったのか、チームでどのように協力したのか、何が成功要因だったか、失敗から何を学んだかを簡単に振り返る時間を設けます。これはデザイン思考のプロトタイプとテストのプロセスに繋がります。
3. 「ワン・ワード・イントロダクション」
- 目的: 参加者の現在の感情やワークショップへの期待を共有し、短い言葉で表現する練習を通じて思考を整理します。
- 手順:
- 参加者に、今日のワークショップで「どんな状態になりたいか」または「何を期待しているか」を「一言の感情」や「キーワード」で表現してもらい、全体に共有してもらいます。
- 例:「ワクワク」「発見」「つながり」「突破」「学び」など。
- ファシリテーションのポイント:
- 参加者全員が発言する機会を均等に与え、順番に回していきます。
- 発言内容に対しては、肯定的な姿勢で受け止め、批判やコメントは挟みません。
- 時間が短いため、導入として非常に効果的です。
アイスブレイクから共感フェーズへの円滑な移行
アイスブレイクで高まった参加者のエネルギーを、どのようにデザイン思考の共感フェーズへと繋げていくかが重要です。
-
目的の再確認とブリッジング: アイスブレイクの終了後、ファシリテーターはワークショップ全体の目的と、これから始まる共感フェーズの重要性を改めて説明します。 「先ほどのアイスブレイクでは、皆さんのアイデアを短い言葉で表現したり、チームで協力して挑戦する面白さを体感したりしました。ここからは、このワークショップの核心である『デザイン思考』のプロセスに入っていきます。まずは『共感』のフェーズです。」 このように、アイスブレイクで得られた学びや体験が、これから行う活動にどのように繋がるのかを明確に提示することで、参加者の意識を自然に移行させます。
-
共感フェーズの活動への導入: 共感フェーズでは、ユーザーへのインタビューや観察を通じて、その課題やニーズを深く理解することが求められます。ファシリテーターは、アイスブレイクで培われた傾聴の姿勢や、他者への関心を維持・発展させるよう促します。 「共感フェーズでは、私たちは特定のユーザーに焦点を当て、その人の立場に立って物事を深く理解することを目指します。先ほどのアイスブレイクで相手の話に耳を傾けたように、ここではさらに深く、ユーザーの真のニーズを引き出すためのインタビューを行います。」 共感マップやカスタマージャーニーマップなどのツールの紹介と、その実施目的を明確にすることで、参加者は具体的な行動に移りやすくなります。
ワークショップでよくある課題とファシリテーション上の対処法
- アイスブレイクで盛り上がりすぎる:
参加者のエネルギーが高まることは良いことですが、本来の目的から逸脱しすぎないよう注意が必要です。
- 対処法: 時間を厳守し、次のアクティビティへの移行を明確に告げます。「皆さんの素晴らしいエネルギーを感じます。この勢いを次のフェーズに活かしましょう」といったポジティブな声かけで切り替えます。
- 参加者が消極的で場が温まらない:
特に初対面が多い場合や、社内文化が保守的な場合は、参加者が発言しにくいことがあります。
- 対処法: 参加しやすい簡単なアクティビティから始め、心理的ハードルを下げます。ファシリテーター自身が積極的に参加し、模範を示すことも有効です。少人数でのペアワークやグループワークから始め、徐々に全体での共有へ移行することも検討します。
- 一部の人だけが話す、または話さない:
発言の偏りは、グループダイナミクスを阻害します。
- 対処法: タイムキーパーや発言者の割り当てを明確にしたり、付箋を用いた個人ワークの時間を設けて全員が意見を出す機会を作ります。話していない参加者には「〇〇さんの視点からはいかがですか」と穏やかに問いかけ、発言を促します。
まとめ:準備と実践が成功の鍵
デザイン思考ワークショップの成功は、その企画設計と、ファシリテーターによる実践的なリードによって大きく左右されます。特にワークショップの冒頭を飾るアイスブレイクは、参加者の心理的ハードルを下げ、その後の共感フェーズで求められる傾聴や共感の姿勢を育む上で極めて重要です。
本記事でご紹介したアイスブレイクの選び方や具体的なアクティビティ例、そして共感フェーズへの円滑な移行のためのファシリテーションのポイントが、皆様のワークショップ設計の一助となれば幸いです。これらのノウハウを実践に活かし、参加者全員が主体的に関わり、真に価値ある新規事業アイデアが生まれるワークショップを実現してください。